コロナ渦でのガイド登山再開~withコロナで登山ツアーは何が変わったか

2020年に世界規模で猛威を振るった新型コロナウイルス(COVID-19)。日本では4月から非常事態宣言を行い、ステイホーム・外出自粛が始まり、およそ1ケ月後に解除されました。その後も登山愛好家はコロナ前のような頻度の登山に戻るまでに長い時間を要したかと思われます。
秋にはGo Toキャンペーンが開始され、それまで「我慢の時」を過ごした旅行・観光業界、山小屋、登山ガイドもようやく本格稼働に結び付けたように思われます。
登山ガイド.net管理人の私も3月のツアー中止以来、9月26日に半年ぶりのツアー同行。ガイディングを再開したところです。感染者数の増減に悩まされ続ける日々が続き、コロナのリスクが完全に消え去っていない「withコロナ」の登山。2020年秋の登山ツアーがどのようなものなのか?どのように安全管理を行っているか?「新しい登山様式」を今回お伝えいたします。

尚、下記に説明する登山ツアーは、私が所属するクラブツーリズム 国内「あるく」関東地方発のツアーを例に説明します。

コロナ前とwithコロナ登山の違い

お客様として登山ツアーに参加して、真っ先に気づくことが多くあると思います。以下に5つの違いを挙げていきたいと思います。

特効薬が開発されていない今は、先ずは安全管理、安全確保を最優先に考えます。また、登山の機会が減ってしまったお客様が少しでも登山を楽しんで頂けることに注力したいと考えております。

  1. 出発前の検温、健康チェックシート
  2. 往復貸切バスの大型化と新しい車内ルール
  3. 登山中の新ルール
  4. Go Toキャンペーン

1)出発前の検温と健康チェックシート

ガイド・添乗員だけでなく、お客様自身も出発前にご自身の体調に関し幾つかの質問項目に回答いただき、集合場所でスタッフに提出します。コロナウイルスの感染が疑われるような過去14日間の行動や現在の体調をシートの質問に答えるかたちでチェックし、また体温も測っていただき、全ての項目を記載の上、署名いただきます。
集合場所ではチェックシートを提出いただき、また非接触型の体温計で再度検温します。

集合場所には登山を楽しみにされてきた元気なお客様ばかりが来られますが、それでも念には念を入れ十分なチェックを行います。

バス乗車前にも検温。私はいつでも36℃

2)往復貸切バスの大型化と新しい車内ルール

これまでの登山ツアーで使用するバスは通常定員が27名程の中型バスです。ガイド1名あたりの引率できるお客様数が限られていることだけでなく、登山口までの道路が細くすれ違いや転回が困難な場所が多いためです。

右が定員約40名の大型バス。左の中型バスに比べると全長に大きな違いが。

コロナ渦でのバスツアーでは大型バスにて移動します。そして更に、お客様1名様につき2席をご用意します。お客様は同じグループ、ご家族であっても原則左右の窓側のみに着座いただきます。

お客様全員が乗るバスの風景。どなたも左右の窓側に着席されています。

◆お客様に影響する新ルール
・バス側面のトランクにはお客様自身で荷物を出し入れ
・乗車時は必ず消毒液で手の消毒
・車内はマスク着用
・着席位置の指定(原則窓側のみ・通路側不可)
・飲食、飲酒禁止(但し水分補給は可)

◆スタッフに適用される新ルール
・運転席後の一列目は使用しない
・運転席と客室の境にアクリル板やビニールシートで空間を遮断
・マイクは複数本用意。運転手、添乗員、ガイドがそれぞれ別のマイクを使用する
・車内換気の継続
・休憩後の再乗車時にお客様に消毒液の使用を喚起

見えづらいのですが、運転席と客席の間に厚手のビニールシートが吊り下げられています
バス乗車前に消毒液による消毒を。この日は添乗員がお客様おひとりおひとりに噴霧



お客様にとって最も不便に感じるのは車内での飲食が禁じられたこと。休憩時に購入した土地の名物やお菓子、出発前の腹ごしらえ、登山後空腹を満たす軽食等、車内で食事が採れないのはとっても不便に感じます。マスクを外し何か口に入れる場合はご面倒でも休憩時やバスの外で召し上がっていただくようお願いしています。

サービスエリアなどの休憩所で多くのバスが並ぶ中、様々なツアーのバスを観察すると、ツアー会社・バス会社により様々な努力が見受けられます。新しいツアー登山様式はまだ確立されたものはなく、企業が試行錯誤を繰り返しています。

3)登山中の新ルール

◆ガイドレシオの変更

これまでの初級レベルの登山ツアー(無雪期)でのガイドレシオは通常「1対15」。ガイド1名に対しお客様数が15名。ガイドが2名であれば最大30名のお客様を引率して登山ツアーを行います。初級レベルとは、例えば無雪期の赤城山(黒檜山・駒ケ岳縦走)や三ッ峠山などが該当します。

お客様からすれば「今回のツアーはガイドがたくさんいた」又は「今回のツアーはお客様が少なかった」と感じられると思います。
これは、班分けをする際に有効となります。これまで1ツアーあたり20~30名のお客様を2~4つの班に分け先頭がガイド、最後尾が添乗員のフォーメーションで登山を遂行していました。新しい登山ツアー様式では班を2つに分け、各班の先頭にガイドが、2班の最後尾に添乗員が歩くフォーメーションをとったり、先頭と最後尾の中間にガイドを配したりし、 あたかも少人数のツアーが2つ同時に歩いているように見えます。

これにより、班やお客様同士の間隔を広げ、ソーシャルディスタンス(SD)を確保し、密集を積極的に防止しています。

*クラブツーリズム あるくシリーズではツアーディレクター(有資格添乗員)もガイドとしてカウントします。

広い山頂でソーシャルディスタンスを確保。クラブツーリズムではwithコロナ期間初期は、様々なリスクの少ない山や新コースを選び、ご案内しています

◆マスクの着用

集合から解散まで、お客様には基本的にマスクの着用をお願いしています。ただ、登山の際はある条件の下、マスク不使用を認めています。その条件は隊列(前後に歩く人)との距離を2m確保できていること。登山中の熱中症や低酸素状態(高山病)のリスクを下げる為、2mのSDを確保することが前提となります。
尚、休憩時や山行中の講義、説明時などお客様同士が密集する時は、マスクの着用をお願いしています。尚、マスクは一般的な使い捨てマスクの他、マウスシールドやbuffのような布を口に当て続けていただく物でも結構です。

◆頂上での集合写真

長い時間をかけようやく到達した頂上。どのお客様も例外なく記念撮影をされます。通常添乗員がお客様のカメラを預かり、頂上の標識と共に写真撮影、となるのですが、新ルールではお客様各自で撮っていただくことになりました。スタッフからお客様への感染の可能性を限りなく少なくするためです。お客様の多くは自撮りでうまく撮られている方も多くいらっしゃいます。

◆お弁当の空き箱

これまでバスに戻った際にスタッフが回収していましたが、現在は回収を中止し、お客様が各自で自宅にお持ち帰ることをお願いしています。

11月の石割山ツアー。マウスシールドを着用しての自撮り。顔の部分はあえてカットしました(笑)

4)Go Toキャンペーン

期間限定ではありますが、現在のバス登山ツアーの多くでGo Toキャンペーンが適用になっています。関東発着の登山ツアーはコロナ前では1万6千円程度の料金が相場でしたが、今回のツアーは21,600円となっています。ただ、Go Toキャンペーンの給付金が7千円付くことから、支払いの実質額は14,900円で、更に3千円の地域共通クーポンが付いています。

おひとり様に付きシートが2座席。ガイドも増え、お土産に使えるクーポンもついてくる。お客様にとってとてもお得に登山が楽しめるチャンスが続いています。

※Go Toキャンペーンは期間限定であり、旅行費用も将来変動が考えられます。

お客様の変化

行のバス車内で私はお客様に対して幾つかの質問を投げかけています。

「コロナ明け、今回の登山は何回目ですか?」

9月の時はほぼ全員が「初めて」
10月も半分以上が初めて。
11月になり、2~3回という方が大半を占めるまでに。

やはり多くのお客様がコロナ期間を経て、これまでの登山のリズムが狂ったと話されています。また体力が減ったと実感される方も。その結果、初級クラスにベテラン級のお客様も多くいらしています。

ステイホームや自宅勤務などによる体力低下から、コロナ前に楽しんでいた山に行くには不安がある。そういったお客様に向けて、安心して楽しめる山やルートを厳選し、また登山ペースや休憩の頻度・時間も配慮したガイディングを心がけています。

過度に不安に感じることなく、先ずはしばらく、リハビリのつもりでレベルを下げ、登山回数を増やしていくことをお勧めしています。そして健康管理に気を付けながら冬の間も登山ツアーや個人山行で月に2回、3回と山に入っていただき、体力の維持、向上を目指していただければと思います。

新しい登山様式

旅行業界も登山業界も、未曽有の危機に対し、今様々な試行錯誤を続けています。非常事態宣言から半年が過ぎ、コロナウィルスの危険度や予防の仕方も当初に比べ冷静に考えられるようになってきたと思っています。お客様、スタッフにとって不便なことがあっても、今は安全確保を第一に、今しばらく様式の確立に向け、安全度を高めに登山を続けていければ、と考えます。

ここでいう安全とは、関東圏から出発されるお客様だけでなく、登山中に接する山小屋、茶屋、お土産屋、更には山中ですれ違う登山客に対しても。

登山ツアーのお客様や登山者が、日々計測される感染者数に影響しないよう、山や観光に携わる一人一人が今後も新しい登山様式を模索し、実践し続けて参ります。ツアーが9月に再開し、既に数百名のお客様を山にお連れしています。私はもちろん、私が担当したツアー内でコロナ感染が発生したという報告も受けていません。今後も上記に説明した対策だけに甘んじることなく、より一層安全を確保できる方法を知り、考えながら取り入れ、いつまでも安全で楽しい登山をガイドして参りたいと思っています。

ツアー概要

◆ツアー計画書
旅行日程:2020年9月26日(土) 日帰り
目的地:鉄砲木ノ頭(てっぽうぎのあたま)
出発地:さいたま新都心 又は 川越
予定:出発地発ー談合坂SAー三国ハイキングコース入口(バス下車・トイレ・ストレッチ)-パノラマ台(トイレ休憩)-鉄砲木ノ頭(1291m)(昼食)-三国峠ーパノラマ台(ストレッチ・トイレ・バス乗車)-狭山PAー出発地にて解散
費用:21,900円(GoToトラベル事業支援対象。お支払い実額14,900円、地域共通クーポン3,000円)
旅行条件:最小催行人員 15名、昼食(弁当付き)
レベル:登山入門
主催:クラブツーリズム

*当ツアーは別出発地・別日程のコース設定がございます

●鉄砲木ノ頭(1,291m)
山中湖西側にある標高1000~1350mの山塊のピークのひとつが鉄砲木ノ頭(明神山)です。パノラマ台からは急坂が続き、直登していくと鉄砲木ノ頭に着きます。広く平坦な山頂の中央には諏訪神社奥宮が祀られています。山頂から眺める富士山は正面に山中湖が広がり、左手に富士山、その右手に南アルプスのパノラマが広がっています。

◆参加者
お客様15名、山岳・登山ガイド2名、ツアーディレクター1名 計18名
内お客様:女性14名、男性1名、70代~30代、大半が50~60代のお客様。リピーターのお客様も数多く。
お客様の登山レベル:コロナ前までは「登山初級」から「登山中級」を選ばれていた方が多かった。

写真:クラブツーリズム